出逢い / ベルギーの作り手・ジェニーさん、ジェフカさん(前編)
ただいま、実店舗にて開催中の
「“ひとつのテーブル”特集展 -やなぎとヘーゼル/ドイツ・ベルギーのかご-」にて
ドイツの作り手、ベンジャミンさんによるヘーゼルとやなぎのかご、
そして、ベルギーのジェニーさん・ジェフカさん作の、やなぎのかごを、それぞれご紹介・販売しています。
どちらも日本では、本特集展がはじめてのご紹介となります。
ぜひこの機会に、実際にみていただけましたら光栄です。よろしくお願いいたします。
さて、今回のコラムでは、ベルギーのジェニーさん・ジェフカさん親子と
私たちの「出逢い」について振り返ってみたいと思います。
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ベルギーのジェニーさん・ジェフカさん親子とはじめてお会いしたのは、
ドイツのベンジャミンさんとおなじく、2023年8月にポーランドのポズナン市で行われた
「世界かご編み大会」でした。
初日、大会の会場へ行くと、各国からやってきた参加選手が受付をすませ、
ゆるやかに開会式の場に集まりはじめているところでした。
そこで、パッと目を引かれたのは、参加選手や関係者たちが被っていた、編み細工の帽子。
麦わら、がま、やなぎ…素材もそれぞれ、皆さんが思い思いの帽子を身につけていて、
これからはじまる、かごの祭典への期待がふくらんでいきました。
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そのなかでも、ひときわ美しい帽子たちに目が留まりました。
あまりのきれいなかたち、つや。雰囲気の良い帽子だったので、
思わずこちらから声をかけ、写真を撮らせてもらったのが、つぎの1枚です。
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男性の、少しぎこちなさのある表情と、女性のリラックスした柔和なお顔が印象的でした。
この日、開会式後の前夜祭にはお二人の姿は見えず、お話ができませんでしたが、
彼らはどんな人たちなんだろう、あの帽子はだれが作ったのだろうと、とても気になりました。
大会本番でまた会えることを楽しみに、翌日をむかえました。
そして、翌日。会場へ入ると、すぐに「シュッ、シュッ」というリズミカルな音が聞こえてきました。
まだ朝の早い時間。会場は広いけれど、静かな雰囲気だったので、
その澄んだ音はあたりに響きわたり、私もすぐに気がつきました。
だれがそんなに気持ちよく音を刻んでいるのだろうと見渡すと、
ものすごい勢いとスピードでなんども腕を振りかぶっている人が見えました。
近づいてみると、若い男性がもくもくと、材料のやなぎのひごを刃物に通して
かごを編むための材料をつくっているところでした。
その彼が、前日に写真を撮らせてもらったうちの1人、ジェフカさんだったのです。
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昨日の帽子を被った彼とは、まるで別人のような真剣な表情で、
すばやく、かつリズミカルにやなぎの細い割材一本一本を、工具に通していました。
それは、なんというか、材料を下ごしらえしているという以上の、見応えがありました。
すべての動きに無駄がなく、まわりで見ている人は皆、自然と立ち止まってしまうぐらいの
あざやかな体の動きでした。
みじかいですが、彼の会場での材料作りのワンシーンをご覧ください。
気迫のこもった勢いで編みひごを作りつづけている彼をまえに、
どうしても質問をするのがためらわれたことは、今でもよく心にのこっています。
たとえば日本の竹細工でつかわれる道具とはかたちやタイプが異なりますが、作業としてはよく似ています。こちらは、やなぎのひごの厚みを段階的にうすくしていく作業です。刃物に傾斜がついていて、だんだんと刃物を通す場所を狭めていくことで、ひごがうすくなっていきます。 こちらは、さきほどの厚みにたいして、ひごの横幅を揃えていく道具です。こちらもいくつもの幅の広さに設定された刃物のあいだに、ひごを段階的に通していきます。 おそらく大会のルールである「2日間で完成させること」と「自分が作りたいものにかかる時間」を彼はよく理解していて、それで初日の朝からフルスロットルで仕事を始めていたのだと思います。 かたわらには、細々した作業用の道具を入れている、ふたつきのバスケットが置いてありました(*今回の特集展でもおなじタイプのものを展示販売しています)
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ジェフカさんの気迫に気後れした私(店主)は、
となりでかご作りを始めようとしていた女性の方に声をかけてみました。
その方がジェニーさん。そして、ジェフカさんは彼女の息子さんでした。
前日に、あまりにも帽子が素敵で、お声がけして写真を撮らせてもらったお二人が、
こちらのベルギーから来ていたジェニーさん、ジェフカさん親子だったのです。
私はいままで三度にわたってポーランドのかご編み大会に来ていますが、
親子で参加されているという編み手の方を、ここで見たのははじめてでした。
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そんな話を、ジェニーさんとしているあいだにも、
ジェフカさんはものすごいスピードで、手を止めることなく、ひたすらにひご作りを進めていました。
この大会では、やなぎを黒く染めたひごをつかって、繊細な編みのかごを作られていました
ジェフカさんの製作スピードにたいして、ジェニーさんが作られている様子は、おおらかな雰囲気。
かごのひと編みひと編みを、じっくり、しっかりと編まれていると感じられました。
こちらの大会でジェニーさんが製作されている様子も、どうぞご覧ください。
この大会中は、お二人がとても集中して作りこまれているという様子だったので、
お邪魔をしてはいけないと思い、長くコミュニケーションをとることはできませんでしたが、
気がつけば私は彼らの様子を見に、なんどもなんども足を運んでいました。
とくにジェフカさんが作られているものをみて、私は日本の竹工芸に共通するものを感じました。
やなぎのバスケット自体はヨーロッパ各地でよく見られ、伝統的なかたちもさまざまありますが、
このような繊細な編みのかごを、スピード感を持って作られる人がいるのだということに
とても感銘を受けたことを今でもよく覚えています。
この2023年大会では、やなぎをつかい、こうした繊細なかごを作られていたのは
ジェフカさんただお一人でした。
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そして各選手の製作がおわり、完成された作品がそろった、3日目。
この日は大会の最終日。審査員による、かご作品の審査がおわり、
表彰式にて、結果が発表されました。
ここで、見事、ジェフカさんは全参加者の頂点といえる、「総合グランプリ」を獲得されました。
世界一の編み技術である、ということを認められたのでした。
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式では、写真手前にいらっしゃる審査員長(こちらのかたもポーランドの編み手)が
講評をされたのですが、今回は、グランプリを決めるにあたっては、
審査員全員の「満場一致」だったとのこと。
この大会では、最年少(当時20歳)での総合グランプリでもありました。
しかし、年齢には関係なく、
とにかく彼の突き抜けた実力に、私は舌を巻くばかりでした。
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グランプリの受賞者名を呼ばれた瞬間。驚いた表情で、大歓声のなか、表彰台へ向かうジェフカさん お母様のジェニーさんも、いっしょに表彰台に登壇されました ご自身の席に戻るジェフカさん。三つ編みの後ろ姿も凛としていてきれいです。
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ジェニーさんも、ほんとうにうれしそうにジェフカさんをたたえていました。
総合グランプリで名前を呼ばれ、おどろきよろこぶジェフカさんは、
かごを作っているときのあの真剣な表情から、また、初日に写真を撮らせてもらった
ほんの少しあどけなさののこる表情に戻っているような気がしました。
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お二人が作られるかごは、たくさんのレパートリーがあります。
このときも、そのなかから、いくつかのかごを購入させてもらいました。
また後日、私が日本へ戻ってからあらためて、注文をしたいとご連絡すると、
「日本へ向けて、はじめて私たちのかごを送れるのは名誉なことです」
と、ジェニーさんは喜んでくださいました。
また、ジェフカさんについては、
「ポーランドの大会の優勝後、ジェフカは毎日満面の笑みを浮かべて歩いています!」
という言葉もそえてありました。
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“ひとつのテーブル”特集展
-やなぎとヘーゼル/ドイツ・ベルギーのかご-
2025年1月
9日(木),10日(金),11日(土),12日(日),13日(月祝)
16日(木),17日(金),18日(土)
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弊店の実店舗は東京・南千住にある小さな家屋で、売り場面積は6坪ほど。
その真ん中にはお店を占めるように、大きめのテーブルが鎮座していますが、
このテーブルに「やなぎ」や「ヘーゼル」のバスケットを並べて、皆さまをお迎えします。
なお、特集は真ん中のテーブルにて。
そのほかの棚は常設の商品をおいておりますので、いつもどおりご覧いただけます。
再入荷の商品のほか、新しく届いているものもご紹介していきます。
こちらもどうぞお楽しみください。
ご来店をお待ちしております!