人と店- 竹清堂さん
少し前のことになりますが、昨年10月の某日、
東京杉並区の「竹清堂(ちくせいどう)」さんを訪問しました。
京王線桜上水駅から5分ほどの
甲州街道沿いに店舗を構えていらっしゃいます。
竹工芸品を制作、販売されているお店で、創業は1907年(明治40年)。
115年に渡り、代々、この地で作り続けられています。
現在は三代目となる田中旭祥(きょくしょう)さん・淳子さんご夫妻、
そして四代目となる茂樹さん・亜希子さんご夫妻が、お店を守られています。
こちらは制作をされている工房の様子です。
旭祥さんと淳子さんは、大分県にある現・竹工芸訓練センターで修行された後、先代からお店を引き継がれて、
こちらの工房で花籠や茶籠、ランプシェードなど
精巧で丁寧な作りの籠から能舞台で使われる道具作りまで、多種多彩な工芸品を作られています。
旭祥さんはこれまで40年以上に渡って
「日本伝統工芸展」に入選なさり、
定期的にアメリカで個展を開かれるなど活動され、
2008年には芸術部門の紫綬褒章を受賞されています。
息子の茂樹さんも、20歳のころから工房に入られ、
もうすでに20年以上、竹工芸の道を歩まれています。
竹清堂さんの屋号は、二代目である、旭祥さんのお父様の清(きよし)さんが営まれていた店名「田中清商店」が由来。
初代の頃には、運搬用の角籠や給食の調理に使われる亀の甲笊など、生活用具としての竹籠を作られていたそうですが、清さんの代になると、高度経済成長時代の影響で
需要が竹製品からプラスチックや段ボールに変わっていき、思うように売れなくなっていったそうです。
そこで、清さんは竹の造形物を作ることを考えます。
竹ひごで編んだ白鳥を店の屋根に置いたことが
人々の目を引き、それから依頼された造形物を
次々に作られていったとのこと。
辰や虎など干支にちなんだお正月飾り用のもの、
鰻屋さんの立体看板、原爆反対のオブジェなど、
迫力のあるものからユニークなものまで。
実物大とも思える4、5メートルはありそうな恐竜の造形物も。
こういった造形物は数人がかりで寝る間も惜しんで作るほど大変だったようです。相当の気力や体力が必要とされたのではないかと思います。
近年では、大きな象さんがお店に飾られているのが、印象的でした。(写真右《または上》参照/今は冒頭の写真の通り、象さんは引退されています)
竹清堂さんのHPでもいろいろな造形物の写真を見られますので、ぜひご覧ください。
竹清堂さんの作られた造形物については、こちらの本にも詳しく載っています。
旭祥さんと茂樹さんが造形物についてインタビューを受けられていて、そのほか、最初から最後まで丁寧に綴られた内容ですので、竹細工についてご興味のある方には(そうでない方にも)ぜひお勧めしたい本です。
上段《または2つ前の》写真、右《または上》写真:
西荻案内所編著『西荻にいたピンクの象』
そして、こちらは竹清堂さんの工房に併設されたギャラリーの様子です。
竹清堂さんと弊店は、同じ東京の地で、
竹細工を生業とする店として
明治期に創業したという共通点があります。
初代や二代目の頃は、竹清堂さんでも
運搬に使う角籠や野菜籠、給食用の亀甲ざるなど、
生活用具としての籠を数多く作られていたそうです。
その後は、竹清堂さんは竹工芸の道を歩まれ、
弊店は三代目で製作を辞めて販売専門となり、進む方向が少し異なりましたが、
それでも、私たち夫婦は勝手ながら親近感を覚えるところがあり、
お店を継いで間もないころに突然お訪ねしたことがありました。
突然うかがい不躾だったにもかかわらず、そのときにいらした旭祥さんと淳子さんは、
ご丁寧に作業の手を止めて、いろいろと優しくお話しをしてくださいました。
そのときのお話では、旭祥さんは、50年ほど前に、
お父様の清さんとご一緒に弊店へいらしたことがあったそうです。
角籠を作ってくれないか、という製作の依頼のためにいらしたとのこと。
それから、折々でお付き合いをいただいています。
茂樹さんの奥様、田中亜希子さんはお花の専門家でもいらして、「花竹清堂」としても活動されています。
山野草や野の花の活け込み、ブーケや籠花のご制作のほか、竹清堂さんでのお花のレッスン、販売も手掛けていらっしゃいます。
毎月、弊店にもお花を届けていただいていますが、
季節を通したお花の変化を楽しむことができ、
山や野の花が、小さな店内に潤いや華やかさを与えて、心地の良い風を引き込んでくれているようにも感じられます。
そして、先月になりますが、2021年12月末に竹清堂さんは大きな節目を迎えられ、
現在の杉並店を閉店し、山梨県北杜市に移転されることとなりました。
夏ごろにご移転のお知らせをいただいたときには、我が目を疑い、とても驚きましたが、
やがて、素晴らしいご決断だなと、じわじわと感動したのを覚えています。
場所が変わっても、竹清堂さんの築かれてきたものは
きっと変わることなく、また山梨の地で根付いていくのだろうと思います。
以前はギャラリーとして使われていた建物を新しい店舗とされるそうです。
いろいろお写真を見せていただきましたが、
それはそれは素敵な空間に、ワクワクしてしまいました。
新店舗での営業開始は今年、2022年の春頃とのことです。
皆さまも、ぜひ、お立ち寄りください。
杉並の店舗建物は建て壊されることが決まっているとのこと。
一抹の寂しさもありますが、これからの新しいステージでのご活躍をお祈りしております。
写真 : イチカワ トモタケ / 文 : イチカワ アヤ