タイ/カチュー村を訪ねて 4 完
こんにちは。店主のイチカワ トモタケです。
ただいま実店舗にて、“ひとつのテーブル” 特集展
タイより / カチューとラタン
-身の周りを整えるかご-
4/27(日)まで開催しております。
お立ち寄りいただけましたら幸いです。
皆さまのご来店をお待ちしております。
また、公式オンラインショップ、楽天市場店ともに
カチューのかごシリーズをご紹介・販売しておりますので、
こちらもお楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。

さて、前回のコラムでは、カチューが育つ湿地の風景や、
収穫されたあとに天日干しされていく様子をお伝えしました。
最終回となる今回は、その素材がどのように手で整えられ、かごが立ち上がっていくのか。
その加工から編み上げまでの、製作の場面を写真や映像とともにご紹介します。

湿地で採取され、表面に泥を塗ってしっかりとコーティングされたカチュー。
その後は、天気を見て、晴れの日に一気に乾かすそうです。
カラリと乾いたカチューの束を見ながら、
わたしは「これで、いよいよかごを編むのかな」と思いましたが——
なんと、まだその先がありました。

Nさんが案内してくれたのは、この作業のために特別に設えられた場所。
コンクリートの床には、大きなコンクリート製の円柱型ローラーが据えられています。
Nさんは床にカチューの束を置き、2本の木製の手すりをつかんで、
ひょいっと、軽やかにローラーの上へ!
手際よく、ごろごろごろごろ。
ローラーを転がしながら、カチューの束をぐっと押しつぶしていきます。

茎のように見えるカチューの葉は、採取したばかりのものは
写真のように内側が丸く空洞になっています。

このままでは、かごを編むには向かないため、
素材を平らにつぶして、テープのような形にしていく必要があります。
これは思ったよりも手間と根気を要する地道な作業です。Nさんは「この大変さを、あなたのお客様にぜひ伝えてね」と笑顔で話してくれました。 一度きりではなく、何度も往復させながら、しっかりと押しつぶしていきます。この工程を丁寧にやっておくことが、後のかご編みにとってとても大切なのだそうです。 さあ、いよいよ編み始めるのかと思ったら…Nさんは材料を背負うと、すっと立ち上がって、別の場所へ。そしてたどり着いた先には、こんな機械が! なんと、今度はまた別のローラーが登場。カチューの束が、ふたたびその間に通されていきます。 念入りに、何度も何度もローラーにかけられていくカチューの束。見ていた私は、ふと思いました。「最初からこのローラーを使えば早いのでは…?」でもその疑問に、Nさんはきっぱりと答えてくれました。 「はじめからここにかけると、カチューが機械の強い力に負けて、ヒビが入ったりしてしまうのよ。だから、まず人の手(足)でゆっくりとローラーをかける工程が必要なの。」大切な材料を無駄にしないための、ひと手間。それが良いかご作りへとつながっていることを、ここでも学びました。 写真左が「人の手(足)」+「機械式」ローラーにかけるまえのカチューの束。 2種類のローラーをかけられて、平らに整えられたカチューの束。これでようやく、かごを編むための準備が整ったことになるのだそうです。

写真のように、細長く整えられ、並べられたカチューの束。
わたしは、これを見て、「カチューベッド」という言葉が浮かびました。
ヨーロッパのかご職人の方が、編み材料の「やなぎ(ウィロー)」を寝かせて保管する場所を
「ウィローベッド」と呼んでいたことを思い出し、タイのカチューの風景にも、どこか通じるものを感じたのです。
村で共同で使われているローラーの機械、そして、その隣で出番を待つ「カチューベッド」。
村の人たちは人の手と機械のちからをうまく掛け合わせながら、丁寧さと効率を両立させ、
かご作りに欠かせない材料を日々蓄え続けているのだと、あらためて実感しました。
編み手の方々は、それぞれの持ち場で、ご自身の担当されているかごを編んでいらっしゃいました。 そばには、丁寧にローラーをかけられたカチューの束が置かれています。 材料が手に取られると、スッ、スッとためらいなく動かされる手先によって、
編み目が次々と整えられ、かごのかたちが軽やかに立ち上げられていきます。 どの方も、日本では「あじろ編み」と呼ばれる、目を詰めて編む技法で作られていました。 軒下などの日陰をうまくつかいながら、皆さん落ち着いた様子で、黙々と、そして手際よく編み進めていらっしゃいます。 カチューは草素材であるため、手で折り曲げて癖がつけられたり、 木槌で軽くたたいて整えられたり、 仕上げには、はさみで細かな形が整えられていきます。カチューのかご作りでは、素材の扱いやすさもあってか、男女を問わず、採取から編み上げまでの工程を、それぞれが自然に担っておられる様子が印象的でした。 こうして作られたたくさんのかごは、糊付けなどの工程を経て形が整えられ、さらに天日干しによってしっかりと乾かされてから、最後の仕上げが施され、完成となります。
カチューの、一本の草からかごが作り上げられていく流れを、短い動画にまとめました。
ところどころに聞こえる「サラサラ」「カサカサ」というカチューの音もぜひご一緒に。
タイ現地の気配や、素材がかごへと変わっていくその過程を、
少しでも感じていただけたら嬉しいです。

一見、うまく循環しているように見えるこの村の仕事も、
ときに大きな自然災害によって止まってしまうことがあります。
台風や洪水によって素材であるカチューが枯れてしまうと、
村全体の暮らしも、仕事の流れも、大きく乱れてしまうのです。
タイ南部の村々を訪れ、こうして私たちがこのかごをご紹介できているのは、
天候に恵まれていたこと、そして現地の方々の協力があってこそ。
あらためて、それはありがたく、幸せなことなのだと、静かに思い知らされる時間となりました。
そうして届けられた、確かな手しごとのかごたち。
現在、店頭での特集展にて、たくさんご紹介しております。
ぜひ、お手にとっていただけたら嬉しく思います。

最後に、カチューのかごにまつわる、ちょっとした“こぼれ話”をひとつ。
Nさんのご自宅の屋外に置かれていた、ひとつのカチューのかごが目にとまりました。
いつ作られたのか、誰の手によるものかも分からないそうで、
道具などを入れるかごとして、ずっと外で使われていたのだとか。
さすがに長いあいだ風雨や日差しにさらされていたため、外側はすっかり傷んで、ボロボロの状態。

ところが、ふたを開けてみてびっくり!
ふたの内側には、まるで当時のままのような、美しい編み目がそのまま残っていたのです。
どうやら、このかごは二重編みになっていたようで、外側は紫外線などで劣化しても、
内側は守られたまま、丁寧に編まれた模様が保たれていたのでした。
カチューのかご細工の奥深さに、思いがけず触れるひとコマとなりました。

おわり
イチカワトモタケ
▽
“ひとつのテーブル” 特集展
タイより / カチューとラタン
-身の周りを整えるかご-
2025年4月
10(木),11(金),12(土)
17(木),18(金),19(土)
24(木),25(金),26(土),27(日)
Open \ 11:00ー16:00
実店舗 \ 東京・南千住 「市川籠店」
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これまでも弊店で定番品として長くご紹介してきた「カチュー(水草)」のかごを中心に、
今回の特集展ではじめてのお披露目となる「ラタン(籐)」のかごも並びます。
カチューのような草細工につかわれる素材は”しなやか”であることが持ち味です。
そのカチューが目の詰まった編み地になると”丈夫さ”も生まれ、日常使いに適したかごとなります。
たくさんの商品タイプやサイズがあり、バリエーション豊富なカチューのかご。
軽やかさや取り回しの良さにくわえて、手頃な価格帯であることもあいまって、
日頃からお客さまに大変ご好評をいただいています。
弊店であつかうカチューのかごは、技術のある作り手によるもので、
さらにしっかりと人の目と手による検品を通ったクオリティの高いものたちです。
さらに、日本の風土や暮らしにもなじみやすく素材の風合いをたのしめるよう、
シンプルで自然な仕上がりになっています。
ぜひご覧くださいませ。