かごの谷の村 ダルハウゼン博物館(2) ― ドイツ出張記 5

こんにちは。イチカワ トモタケです。
前回のジャーナルからつづきます。
このダルハウゼンは、異国であり、文化や習慣もまったく異なる土地だと思っていたのですが、
ダルハウゼンかご職人博物館の展示を通して、町とその歴史に日本との思いがけない接点を見つけた
私は、親しみを覚えながら、さらに館内の奥へと足を進めていきました。

ダルハウゼンは、ドイツの西部にあるノルトライン=ヴェストファーレン州に位置し、ベーヴァー川の流れる谷あいにある村です。 このベーヴァー川があることで、材料となるやなぎの栽培や、舟運による販売経路の拡大が可能となって、かご作りが発展していきました。 
ダルハウゼンでのかご作りが産業として芽生えたのは、18世紀頃(日本の江戸時代中期から後期頃)。 それまでは農業中心の村でしたが、この頃に食料の流通が安定し、医療と衛生が改良され、人口が増えていきました。 
こちらが1800年頃のダルハウゼンの地図。この当時は数えられるほどの軒数です。人口は200人ほどだったそう。 
こちらが1855年のものです。この55年のあいだに土地は細分化され、家々の軒数が大きく増えていることが見てとれます。当時の人口はおよそ900人。人口が増える一方で農地は分割されつづけ、農業だけでは生計を立てられない人々が次第に増えていきました。 
そのため、一部の人々はアメリカへ移住し、そのほかの多くの人々も、季節労働者として村の外へと働きに出ていったといいます。 
そして、農家の副業としてのかご作りが本格的に始まったのもこの頃のことでした。 
かごの材料となるやなぎは、ダルハウゼンを流れるベーヴァー川、そして本流であるヴェーザー川流域で採取されていました。当時、ダルハウゼンの人々はヴェーザー川流域における「やなぎの採取権」を有していたと伝えられています。毎年7月から9月にかけての約6週間、村の男性たちはヴェーザー川流域へ収穫におもむき、刈り取ったやなぎを束ねて村へと持ち帰ったそうです。 
やなぎは刈り取られたあと乾燥させるものもあれば、ベーヴァー川に浸され、皮をはぎやすくしてから加工されるものもありました。こちらの写真(1954年)からは、やなぎをベーヴァー川にひたしている様子がうかがえます。右手の建物は、いまのダルハウゼンかご職人博物館です。 
こちらは実物の、皮のついたやなぎが浸されているもの。 
ほかには、やなぎの束を裁断する台も展示されています。 
もとは、一本一本、手で皮をむいていましたが、1940年代になるとローラー式の機械でむけるようになり、生産性が上がったそうです。 
皮をむく金具や、機械も展示されています。 
川に浸しておいたやなぎをこの金具にすりつけながら皮をむきます。実にプリミティブな道具です。今でもヨーロッパの作り手には、この道具を使われる方がいらっしゃいます。 
こちらは、はさみのように指で挟んで皮をむく道具です。 
皮をむいたものを天日干しすると、やなぎは白くなります。ここまでがダルハウゼンにおける基本的な材料の下ごしらえです。そして、かごを編む前に、再度、水に浸して柔らかくしてから編みはじめます。 
こちらは職人たちの作業台と椅子です。写真手前が作業台、奥に椅子があります。机の前方が下がり、傾斜がついているのがダルハウゼン式だそうです。 
ダルハウゼンのかごは、底の部分から編みはじめ、つぎに側面を立ち上げて、縁巻きへと仕上げていくスタイルです。 
作業台にある道具。かごの縁を巻くときに編み目に差しこむ道具や、編み目を詰めるためにたたくハンマーのようなもの、そして、ニッパー。 
また、かごだけではなく、太いやなぎをフレームにして作られた椅子などの家具もありました。 
こちらは、ノコギリ。竹を切るノコギリとおなじようなかたち!断面をきれいに切りたいときにこのかたちが用いられたそうです。 
左はノコギリ、右は太いやなぎの、枝のまがりを矯正する道具です。家具を作るときはこの道具で真っ直ぐに整えていました。 
ダルハウゼンではかごの生産が発展するにつれて、周辺の川流域だけでは材料が不足するようになり、1800年代後半にはポーランドやフランス、ベルギーからも皮をむいたやなぎを仕入れていたといいます。こちらは、その材料を計測するための「はかり」です。

こうして館内のかごをいろいろと見てまわっていると、 
ダルハウゼン製のかごは、やはり、やなぎの皮をむいた白いひごで編まれたものが多いように感じられました。 
やなぎにかぎらず(日本の竹も同様ですが)、表皮には自然に自生していたままの風合いや傷、シミなどがあり、一本一本に個体差があります。それらを編んでかごにすると、色味にゆるやかなグラデーションが生まれたり、風合いのちがいがあらわれたりと、一点一点に個性のあるかごが生まれます。 
今の時代であれば、そうした個体差はオリジナリティがあって良いと受け止められるかもしれませんが、当時はおそらく、大量に販売するために、個別性よりも製品としての均一性が重んじられ、そのため、安定した品質の製品を生産できるよう、皮をむいたものが多く用いられていたのだと思います。

こちらは、当時のかご職人の住まいの様子を再現した展示です。

こうして家内制手工業として発展したダルハウゼンのかごづくりは、
やがてその黄金期を迎えます。
つづきは次のジャーナルで。
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“ひとつのテーブル”特集展
ドイツで出会った、ヨーロッパのかごたち
2026年
2月19日(木)・20日(金)・21日(土)・22日(日)・23日(月祝)
26日(木)・27日(金)・28日(土)
3月5日(木)・6日(金)・7日(土)
Open | 11:00ー16:00
実店舗 | 東京・南千住 「市川籠店」




